まめいろん

きのおもむくままに

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28 May 2019

与えられた生を全うすること

真っ白な世界に,無限に広がる平面がある.そこに埋め込まれたコップが一つある.コップには蓋がある.自分の意思で水を通す,目に見えない蓋である.そのコップは私自身である.あなた自身である.

その周りには,あなたがその存在を強く感じる他のコップがある.その外にもコップがある.認識が広いだけ,コップも無限にある.これまで出会った人,本で知った人.歴史上の思想家に至るまで.

コップの温度はそれぞれである.暖かいコップ,冷めたコップ.コップの熱は,空間を介して他のコップに伝わる.水は自分の意思で通すことが出来るが,熱の出入りは自分の意思とは関係なく起こる.

平面の上側には宙に浮いた無限の水がある.この水は情報であり考えであり思想である.汚れた水,綺麗な水,光輝く水.模造の水.

生まれ立てのコップはそれ自体が光を放ち,周りのコップは暖まる.今度は暖められたコップが,その新しいコップを暖める.出来立てのコップには蓋がない.近くにある水が自由に入る.水はコップに入っても元の水のままである.汚れた水は濾過されない.しかし光輝く水もまたその輝きを失わない.

成熟したコップは自らの中で黄金の水を作る.そこから溢れた一滴の雫は時間が経っても輝き続け,人々の目にとまる.黄金の水を生み出すには膨大な内なるエネルギーが必要である.そして黄金の雫は,そのコップが満たされた時に出るものである.満たされるとは,体積ではなく重さである.

幸せとは,等身大で自分の純粋な水を作り出し,それを自然にコップの外に出せることなのではないかと思う.生み出した水の輝きは,才能や身につけたもので違うかもしれない.光輝くものは確かにより多くの人に何かを伝える力を持つ.だがたとえ光は弱くとも,純粋で綺麗な水は,誰にとっても快いものとなるだろう.才能ある者も忘れてはならない.如何に光輝こうとも,汚れている水は飲むことが出来ないのだということを.

この世に生まれたものは,皆輝いている.生まれた者には皆それだけで価値がある.その者自身が発する光は次第に弱くなるが,長い年月をかけても純粋なままでいる精神から生まれた行為や思想には光が宿り,人々を照らし,暖めることができる.それは幸せなことではないだろうか.

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