まめいろん

きのおもむくままに

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5 December 2021

魂の偏在

天才の作品には,その隅々まで魂がゆき届いている.鶴ケ岡八幡宮の人混みの中を一人歩いていて,ふと思った.

天才は孤独であることが多い.天才だから孤独になるのか,孤独だから天才になるのか.おそらく前者はおおよそ成り立つように思われる.後者は成り立たない場合が多いと思うが,天才が生まれるための必要な条件だと思う.

天才も一人の人間だから,孤独の中で寂しさを感じないなどということはない.情動は人間に本来備わったものだからだ.天才は寂しさを埋める先を周囲の人ではなく,はるか遠くはるか先にいる人に求めるのだ.自らの体ではそこにたどり着けない.永く遠くまで届く作品になって,まだ見ぬその人に会いにゆく.

時の選別に耐えるため,その作品はより強固でより深くまで続いている.長く生きられるように,産み手の魂が隅々までゆき届いた力強い生命を与えられている.

それでも天才が生み出すものは,多くの人が産み出すものにはるか及ばない.子どもをもつ親ならわかる.わが子がこの世に突然現れるあの瞬間の不思議さと生命の尊さを.おそらくそれは天才自身もわかっている.

だから天才とはあまり進んでなれるものでも,なるものでもない.人と交わり最も尊いものを育てられない自分の本性と葛藤を昇華させ,自らがこの世に存在した証と自らを育んでくれた世界への善なる働きを,どこまでも美しい作品として遺すのだ.

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